Webサイト評価インベントリーWEIの作成目的と内容


T Webサイト評価インベントリー WEI ─作成経緯と尺度の内容─

1. Webサイト評価インベントリー WEI の背景と目的

 日本のインターネット利用者はすでに 3,500万人を越え (2002年4月現在),巨大な情報ネットワークである インターネット は急速に普及しています。わたしたちは,身近に,便利で,ばく大な量の 情報資源 を手に入れることができたといえます。
 こうしたインターネット上の情報資源(インターネット情報資源)として最も利用されているものの1つがWebサイトです。よく知られているように,現在,さまざまなタイプが,無数に公開されています。
 Webサイトの利用目的には,娯楽,ショッピングなどさまざまですが,学術的,専門的な知識を得ることも重要な利用目的の1つです。専門家から一般人に至るあらゆる人たちが,より専門的な知識を得るための情報源として,Webサイトが利用されています。
 しかし,専門的な知識を得る目的で利用している際に,参照しているWebサイトが適切なものなのかどうか,判断を下すための手がかりは漠然としていました。これでは,安心してWebサイトを利用することができません。
 したがって,情報源としてWebサイトをうまく活用していくためには,“Webサイトの質”が評価できることが必要であるといえます。
 すでに欧米では“Webサイトの質”に対する評価が研究され,広く行われています。しかし日本では,まだ研究が緒についた段階です。

 誰もが,信頼できる情報を,より手軽に得る目的からWebサイトを評価するための,簡便で,有用な評価尺度の必要性は高いと考えられます。
 そこで,主に知りたい情報を得るために利用されるWebサイトの質を評価するために作成された尺度が,このWebサイト評価インベントリー WEIです。


2. Webサイト評価インベントリー WEI の評価対象と評価主体

 Webサイト評価インベントリー WEI によって想定されている評価対象と評価主体は以下の通りです。

2.1 評価対象
 知りたい情報を得るために利用される情報源としてのWebサイトの質を評価するものです。
 また,主に学術的,専門的な情報を得るために,広く手軽に利用される無料のWebサイトを対象としています。
2.2 評価主体
 Webサイト評価に関する専門的な知識のない一般人を想定しています。


3.Webサイト評価インベントリー WEI の内容

 Webサイトの質を評価するための基準は,欧米を中心に研究され,代表的な図書館のWebサイトには評価基準やチェックリストが掲載されています。
 こうした基準は,印刷体資料の評価基準にWebサイトの特性を加味したものが中心です。

 本研究では評価基準を作成するために,以下をはじめとする既存の研究や評価基準および評価尺度の内容を詳細に検討した.
(1) 一般的包括的なWebサイト評価基準:AlexanderらのWeb WISDOM(1999),Cooke(1999)など.
(2) 利用者の年齢層毎に作成されたWebサイト評価基準:AroneらのWebMAC(1999)など.
(3) 大学生への教授を目的としたWebサイト評価基準:Kapoun(2002),Grimesら(2001)など.
(4) 日本で発表されたWebサイト評価基準:吉田ら(1996),坂井(2002)など.
(5) 学術的な研究志向のWebサイトの集積および体系化の際に利用する評価基準:棚橋(2000).
(6) 図書館や情報機関がWebサイトを収集するための評価基準:ALSC(1997),Leeら(2002)など.
(7) レファレンス資料やCD-ROM/オンライン情報検索の評価基準:長澤(2001),Katz(1997)など.


3.1 評価基準と評価項目
 検討の結果,学術的な情報を得ることを目的として利用するWebサイトの質に対する評価基準は,a. 掲載情報の信頼性,
b. 情報のアクセスビリティ,といった2つの上位基準をもち,さらに掲載情報の信頼性は5つの下位基準に分類できると考えられました。
 ただし,主観性は,ここでいうWebサイトの質の評価にとって重要でないと考えられるために除外しています。
 さらに,信頼性の評価のための5つの基準に,情報のアクセスビリティを加えた計6つの評価基準のそれぞれに該当する評価項目を,簡便な評価尺度の作成を目指すことから,できるだけ少ない数に絞りました。

 作成/選定された6評価基準と評価項目は,以下の通りです。

(1) オーソリティ Authority
 Webサイトの作成者/機関が掲載情報を作成する上でふさわしい専門性と主題知識をもっている程度。
 評価項目は,作成者/機関に関する名称,連絡先,所属,それぞれの明記である。

(2) 正確性/客観性 Accuracy/Objectivity
 掲載情報がもっている正確性と客観性の程度。正確性とは掲載情報が正しく,確実であり,基本的な誤りがないこと。客観性とは掲載情報が個人のもつバイアスや感情によって歪められておらず,事実にしたがっていること。
 評価項目は,研究やデータに基づいた掲載内容,個人的な意見/主張のなさ,誤字/脱字などのなさ,製品/サービスの宣伝目的でないことである。

(3) 収録範囲 Coverage
 掲載情報が収録する情報の範囲・限界の明示,および,そうした範囲を補完する情報提示の程度。
 評価項目は,掲載内容のテーマ,引用した情報源のタイプ(政府発表,統計データ,新聞など)それぞれの明記,掲載内容を補足するWebサイトへの十分なリンク,FAQにおける丁寧な回答である。

(4) 更新性/安定性 Currency/Stability
 掲載情報の更新性と安定性の程度。更新性は掲載情報の更新が適切になされていること。安定性は掲載情報やWebサイトそのものが,ある程度安定していること。
 評価項目は,最終更新日,更新頻度,更新箇所,それぞれの明記である。

(5) 目的と利用対象者 Purpose/Audience
 Webサイトの目的とWebサイトの利用対象者が明確である程度。
 評価項目は,Webサイトの作成目的や,利用対象者の明記である。

(6) アクセサビリティ Accessibility
 ウェブサイトの利用者が探索する情報を,Webサイト内で見つけやすくする配慮と工夫がなされている程度。
 評価項目は,Webサイト内を移動しやすくする工夫(サイトマップ,サイト内サーチエンジンなど)の有無やその適切な掲載位置,Webサイトの利用方法に関するヘルプ情報,表示速度を落とす画像/動画のなさ,特定のブラウザやソフトウェアが必要な場合にそうしたソフトウェアについての十分な説明である。


U Webサイト評価インベントリー WEI に関する研究発表等

0.調べるためのウェブサイト評価:インターネット時代の情報リテラシー
  鷲見克典,四谷あさみ(著) 三恵社.144ps.2007.05.01刊行
  ISBN 978-4-88361-539-1,判型 A5,1,260円(本体 1,200円)

※ 以下のほとんどの研究成果がまとめてあります.

1.調べる目的で利用する情報源としてのWebサイトに対する評定尺度の作成と信頼性および妥当性の検討
  情報処理学会論文誌45巻3号,pp.1032-1040,2004.

 本論文 PDFファイル (617kb) *1
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2.調べる目的で利用するWebサイトの評定に情報ニーズが及ぼす影響
  情報文化学会誌,3号,pp.55-64, 2005.

3.調べるために利用するウェブサイトの評定尺度における有効性の検証
  Library and Information Science(三田図書館・情報学会)50号,pp.125-149,2004.

4.ウェブサイトの質に対する評価尺度の開発とその有効性の検証─情報リテラシー教育の改善に向けて─
  情報技術レターズ,Vol.1,pp.237-238 (LN-3)
  (
2002年度情報科学技術フォーラム(FIT2002)講演論文集)
  第1回情報科学技術フォーラム(FIT2002),2002年9月25日,東京工業大学(東京都)

5.大学生による学術情報入手のためのウェブサイトの評価に与える要因の検討
  2002年度日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱,pp.23-26.
  2002年度日本図書館情報学会春季研究集会,2002年5月18日,同志社大学(京都市)

6.ウェブサイトの質に対する評価尺度の開発における予備的検討
  情報処理学会研究報告(コンピュータと教育研究報告 2002-CE-65),Vol.2002,No.65,pp.25-32.
  情報処理学会「コンピュータと教育」第65回研究発表会,2002年7月5日,豊橋技術科学大学(豊橋市)

7.調べるためのウェブサイトを評価する─作成した評価尺度の情報リテラシーにおける有効性─
  情報文化学会第10回全国大会講演予稿集, pp.141-144.
  情報文化学会第10回全国大会,2002年10月25日,ウィルあいち(名古屋市)

8.調べる目的で利用するウェブサイト情報源に対する評価尺度の妥当性と信頼性の検証
  2003年度日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱,pp.75-78.
  2003年度日本図書館情報学会春季研究集会,2003年5月17日,大阪市立大学(大阪市)

9.掲載情報の信頼性に焦点を当てたウェブサイト評価尺度の開発とそれを組み入れたウェブサイト評価システムの構築
  平成13年度電気通信普及財団研究調査報告書,No.18電気通信普及財団


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